連載第3回

July 20, 2008

 バスまでには3つの難関があるとガイドのウォレスさん。1つ目は、ビーバーダム。綿スゲの白い花が美しく咲いたその下は、ビーバーがダムを作ったために、沼地になっていて、6輪バギーでも通ることができない。迂回し、道なき道を行く。途中、幾度と無く止まり、川と呼んだほうが正しい道をスコップで均しながら進む。激しく揺れるバギー。
 2つ目は、サヴェージ・リバー。正真正銘の川。アラスカの川は、どんなに奥地でも、日本人が想像するような透き通った水はほとんど流れていない。解けた氷によって岩肌が削られ、その栄養分が溶け出しているため、濁ったように見える。濁流へ、ためらいも無く突っ込んでいく。スピードを緩めると、流れに捕まってしまうのか、エンジンがうねりを上げるほどアクセルを踏み続ける。数秒のアタックだが、一瞬、流されてしまったときのことを考えてしまう。ここからほんの2.5マイルで、マッカンドレスが渡る事の叶わなかった、テクラニカ・リバーに着く。そう、3つ目の関門は、クリスの生死を左右した、雪解け水がどっと流れ込むテクラニカ・リバー。川岸に着くなり、ガイドのウォレスさんが顔をしかめる。上流、下流へと歩きながら、渡れそうな場所を探る間、会話を交わす。
 ウォレスさんは、ショーン・ペン監督やクルーたちを実際にバスへと連れて行ったガイドでもある。当然、映画も見ていると思い話をふると、こう嘆いた。「いや、見ていない。原作は読んだけどな。アラスカンにとっては、あの若者はクレイジーだとしか思えないんだ。わずかな米しか持ってなかったんだろ? 将来有望な若者だったって言うのに、もったいない」。旅の途中、何度か聞かされた「クレイジー」というクリスへの批判。冒険と無謀との狭間で、最終的に生きて帰ろうと試みたにせよ、アラスカで暮らす人々の言葉は辛辣だ。
 ウォレスさんは、夏季にはガイドとして働くこともあるが、本職はハンター。冬季でも、このテクラニカ・リバーの辺りまで、ドール・シープやフォックスを撃ちに来る。本当に自然の中で暮らしたければ、彼のような生活をすればよかったのかもしれない。「お前たちは東京に住んでいるのか、あんなに人の多いところに。俺はアンカレッジでも住むことができないよ。この辺りに住んでいるのは、俺の家族だけだけど、それで十分だし、そういう生き方しか俺にはできない」。
 人間よりも動物を身近に感じる暮らしは、豊かであり、厳しいのだろう。だからこそ、クリスを認めることはできない。クリス、ウォレスさん、どちらの生き方も、選択することさえ考えたことのない脆弱な日本人は、滔滔と流れる川の前で何を思えばいいのだろう。
〜第4回へつづく〜

村岡俊也(旅人・文)
中央大学法学部卒業後、ライターに。雑誌「BRUTUS」「BRUTUS TRIP」等で活躍中。

米谷亨(旅人・写真)
日本大学芸術学部卒業後、カメラマンに。雑誌「BRUTUS」、「FIGARO VOYAGE」等で活躍中。


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