連載第2回

July 20, 2008

 アンカレッジから北へ400キロ弱。アラスカでもっとも観光客の多いデナリ国立公園へのエントリー場所として知られる、ヒーリー。マッカンドレスが最期を遂げた荒野のバスから、一番近い街。しかし、街と呼べるほどの建物はない。数件のホテルと、小さなスーパー。バスへのデイ・トリップに備えて、白夜で23時を過ぎても明るい陽が差し込む中、ベッドに潜りこんだ。
 翌朝ホテルのレストランでパンケーキを食べ、スーパーで水と食糧を買い込んで、いよいよスタンピード・トレイルへと車を走らせる。途中、今回のガイド、C.W.ウォレスさんの暮らす家に立ち寄り、ピックアップトラックから6輪バギーへと乗り換える。運転席以外に、2人分しか座席が無いため、荷台に座って荒野へと向かう。マッカンドレスが雪の中4日間歩いた道を、わずか3時間で進み、もう3時間をかけて帰ってくる予定。しかし、1週間前に同じ道を進んだグループは、ウォレスさんの忠告を聞かずに増水した川を渡ろうとして、車ごと流され、命を落としているという。いくらガイドに守られた冒険とは言え、人工物に囲まれて暮らす日本人が容易に踏み入れられる場所ではないことを再確認する。マッカンドレスでさえ、アラスカに入る前に2年の月日を費やしたのだ。
 ウォレスさんの家を出てから10分、舗装されたコンクリートの道が切れ、ファイヤーウィードという赤い花が両脇に咲いている道を5分ほど走ったところでバギーが止まった。荷台から降り、駐車場のように開けた場所から、山並みを眺める。低く垂れ込めた空の隙間から少し青空が見える。ウォレスさんが説明を始める。「俺の考えでは、ここでマッカンドレスは車を降りたはずだ。さらに先だって言うヤツもいるが、冬にここから先に車で行くことはかなり厳しいから。でも少なくとも、ハイウェイじゃなくて、ここまでは送ってもらったはずだ」。今は、短い夏の間に目いっぱい光合成をしておこうと葉を広げる植物たちの、穏やかな景色しか見えない。
 一応の道はあるが、それは単に木が生えていないだけであって、凹凸の激しさに6輪バギーで来たことの意味を理解する。振り落とされないように荷台の枠にしがみつきながら、マッカンドレスの一生に思いを馳せる。黒トウヒの樹が途切れた場所から、パッと開けたツンドラ平原、山並み、低い雲。この何もない景色の一部でいることが信じられなかった。
〜第3回へつづく〜

村岡俊也(旅人・文)
中央大学法学部卒業後、ライターに。雑誌「BRUTUS」「BRUTUS TRIP」等で活躍中。

米谷亨(旅人・写真)
日本大学芸術学部卒業後、カメラマンに。雑誌「BRUTUS」、「FIGARO VOYAGE」等で活躍中。


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