マッカンドレスが目指した荒野とは、どんな場所なのか? ラスト・フロンティアと呼ばれ、実際に多くのヒッピーたちがベトナムへの兵役を避け、逃げるように辿り着いた北の地に、彼の最後の足取りを辿る旅に出た。
アラスカ。アメリカ50の州のうち、もっとも北にあり、もっとも広大な面積を持つ土地。有史以前、1万年以上もの間エスキモーとインディアンたちが、狩猟生活を送っていた土地。冬には-30度の極寒に達するが、夏には気温が20度を超えることもある。気温差50度の厳しい環境にも関わらず、多くの生物を養う肥沃の大地でもある。成田からは、直行便であればわずか6時間のフライトで到着してしまう「日本に一番近いアメリカ」。
アンカレッジ国際空港に降り立ち、湿気の少ない爽やかな空気に少し高揚しながら、出国手続きを済ませる。ゲートをくぐり、まず出迎えてくれたのは、ポーラーベアの巨大な剥製。絶滅危惧種のこのホッキョクグマが、アラスカには数千頭生息しているという。生きているかのような咆哮の姿に圧倒されてしまう。空港外の喫煙スペースで煙草を吸っていると、いかつい体躯のガイドと思しき男たちに話しかけられた。「どこから来た?」「釣りか?」「寒くないか?」と矢継ぎ早の質問に、「暑い日本から来たので涼しい。釣りもするつもりだ」と答えると、アラスカのサーモンはでかいぞと豪快に笑い「Enjoy Alaska!」とゲストを迎えに行ってしまった。出発前に読んだ開高健の旅行記に書いてあった「アラスカは、植物以外は何でも大きく育つ」という言葉を思い出す。
空港からアラスカ最大の街・アンカレッジへと高速道路を飛ばす。最大の街と言っても人口は30万人に満たない。大きなピックアップトラックが時速100キロ以上で走り去っていくが、道が広いためそれほどスピードが出ているとは感じない。10分ほど走ったところで車がスピードを緩める。渋滞かと訝りながら視線を上げると、高速道路をゆっくりと横切る巨大なムースが見える。体長3メートルを優に超える、圧倒的な存在感。シカの中では世界最大のこの動物のオスには、威厳を示すように大きな角が生えていた。眼前を悠々と歩く姿に神々しさを感じてしまう。写真を撮る間もなく、道路脇の森へと消えていくムース。マッカンドレスが苦悩した、野生動物をハンティングして食べることに対し、彼と同じように畏怖の念を強く感じた瞬間だった。
〜第2回へつづく〜
村岡俊也(旅人・文)
中央大学法学部卒業後、ライターに。雑誌「BRUTUS」「BRUTUS TRIP」等で活躍中。
米谷亨(旅人・写真)
日本大学芸術学部卒業後、カメラマンに。雑誌「BRUTUS」、「FIGARO VOYAGE」等で活躍中。